「育休後に復帰せず退職するのはズルいのか?」
SNSやコメント欄では、正義感と苛立ちが混じった強い言葉が並びます。
制度を守りながら復帰してきた人ほど、不公平さを感じやすいテーマです。
一方で、出産や育児を経て、働き方や人生観が大きく変わる人がいるのも事実。
感情論だけが先行しがちなこの問題を法律・制度・専門家の視点から整理します。
育休後に復帰せず退職するのは制度の悪用なのか?
まず多くの人が知りたいのは「それってルール違反なの?」という点でしょう。
結論から言えば、現行制度のもとでは違法でも不正でもありません。
法律・制度上の結論
育児休業は、一定の要件を満たせば取得できる「労働者の権利」です。
育休取得時点で「必ず復帰しなければならない」という法的義務は課されていません。
そのため、育休中や復帰直前に退職を選んだとしても制度上は問題ありません。
あくまで「権利を行使した結果の退職」という位置づけになります。
もちろん、会社側が感情的に納得できないケースはあります。
しかし、それと違法性や不正受給とは別の話です。
なぜ「悪用」と受け取られやすいのか?
それでも「もらい逃げ」という言葉が生まれるのには理由があります。
多くの職場では、育休は「いずれ戻ってくる前提」で人員配置が組まれています。
代替要員を期間限定で確保し、周囲が負担を分担する。
この前提が崩れたとき「裏切られた」という感情が生まれやすいのです。
制度と感情のズレ。
ここが、この問題の火種になっています。
なぜここまで批判が集まるのか?
法律的に問題がないにもかかわらず、批判が強まるのはなぜでしょうか?
そこには、職場運用の現実と、日本特有の価値観が関係しています。
職場・後輩への影響
育休に入ると、現場は一時的に人手不足になります。
同僚や後輩が業務を引き継ぎ、負担が増えるケースも少なくありません。
「戻ってくると思って耐えていたのに、結局辞めた」。
そう感じる人が出るのは、ある意味自然です。
結果として、「次に育休を取る人が肩身の狭い思いをするのでは?」という不安も広がります。
批判は、個人よりも制度の持続性への恐れから生まれている側面があります。
「真面目に復帰した人」が損をする感覚
もう一つ大きいのが、感情的な比較です。
育休後、時短や制約の中で必死に復帰した人ほど複雑な気持ちを抱きやすい。
「私は大変でも戻ったのに、辞めた人は給付だけ受け取った」。
この感覚が、「ズルい」という言葉につながります。
育休制度は、長年「お互い様」という善意で支えられてきました。
だからこそ、その前提が揺らぐと強い反発が起きやすいのです。
専門家はどう見ているのか【別の視点】
感情論を離れ、専門家はこの問題をどう捉えているのでしょうか?
そこには、個社と社会全体を分けて考える視点があります。
会社目線と社会目線の違い
会社単位で見れば、育休後退職は確かに損失です。
人材育成コストや引き継ぎ負担が無駄になったように見えます。
しかし、社会全体で見ると話は変わります。
育休制度があるからこそ、出産を選び働き続ける選択肢が保たれている。
たとえ一部が退職しても、制度が存在する意義自体は揺らがない。
専門家は、この長期視点を重視しています。
問題は「辞め方」より「戻りたいと思える職場か?」
多くの指摘が向かうのは、いわゆるマミートラック問題です。
復帰後に責任ある仕事から外され、昇進も期待できない。
「戻ってもキャリアが閉ざされるなら、辞めた方がいい」。
そう考える人が増えるのは、職場環境の問題とも言えます。
論点は、「辞めたこと」よりも、「戻りたいと思える環境だったか?」。
ここを見直さなければ、同じ議論は繰り返されます。
育休中に転職を考える人が知っておくべき現実
感情的な議論とは別に、当事者が直面する現実もあります。
育休中の退職や転職は、決して簡単な選択ではありません。
転職市場の厳しさ
乳児を抱えた状態での転職は、正直に言って不利になることがあります。
勤務時間の制約や急な休みへの懸念は、採用側も無視できません。
「育休中なら引く手あまた」という期待は危険です。
現実は、想像以上に厳しい場合もあります。
保育園・制度上の注意点
もう一つ重要なのが、保育園と自治体ルールです。
多くの自治体では、復職を前提に入園が認められています。
退職のタイミング次第では、退園リスクが生じることもあります。
復職証明や就労条件の確認は、必ず事前に行う必要があります。
勢いで決めると、生活そのものが不安定になる。
この点は冷静に考えたいところです。
まとめ
育休後に復帰せず退職することは、法律上も制度上も違法ではありません。
それでも批判が集まるのは、職場の現実と感情の問題が絡み合っているからです。
本質的な課題は、個人の選択を責めることではありません。
「戻りたいと思える職場」をどれだけ増やせるか。
対立ではなく、制度を続けるための議論が今こそ求められています。